筆跡もグラミー級の小澤征爾

 

世界最高峰の音楽の祭典、第58回グラミー賞の
最優秀オペラレコーディング賞に、小澤征爾氏が
指揮したラベル作曲の歌劇「こどもと魔法」を収めた
アルバムが受賞したのは、みなさんご存知の通り。

小澤氏のグラミー賞ノミネートは今回で8回目ですが、
受賞は初めてになります。

小澤氏は旧満州生まれの80歳。
23歳の時に単身、貨物船でヨーロッパに渡りました。
世界的な指揮者のカラヤンやバーンスタインに師事したのち、
アメリカのボストン交響楽団で30年近く常任指揮者と音楽監督と兼任。
ほかにも、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとした
世界有数のオーケストラでタクトを振るい、その実力は言わずもがな。
平成14年にオーストリアのウィーン国立歌劇場に移り、
8年間にわたって音楽監督としてのポストを務めました。
昨年12月にはアメリカの芸術や文化に貢献した人に贈られる
「ケネディ・センター名誉賞」を日本人として初めて受賞するなど、
傘寿を過ぎてなお「世界のオザワ」として第一線で活躍する小澤氏だけに、
「グラミー賞初受賞」というのは少々意外な感じがしないでもありません。

そんな「世界のオザワ」がどのような筆跡を描くのか、
筆跡のプロとしての血が疼き(笑)、調べてみました。

 

小澤征爾1

 

掲載の色紙は小澤氏行きつけの横浜中華街レストラン
「福楼」に贈られた2007年の筆跡。

 

まず目を引くのが、小「澤」征「爾」にみられる大きな弧。
英語のサイン「S」eiji 「o」「z」awaにも大弧がみられます。
文字のなかに淀みない曲線で大きく描かれる弧には
書き手の溢れんばかりの巨大なエネルギーを表します。
寛大で努力を惜しまず、大物の器量を漂わせます。
歴史上の人物でいえば、豊臣秀吉や野口英世、
松下幸之助や吉永小百合も大弧型筆跡の持ち主です。
特に「澤」の字の弧は、下から上に文字全体を
大きく包み込むような大らかさが感じられ、
「世界のオザワ」のスケールの大きさをそのまま表しています。

 

小澤の「小」の字、左右の点も尋常でない開き方です。
左右の点が文字の中心部から大きく広がるのは、
文字を構成するうえで大きなロスになるとともに
無駄なカロリーを費やすことにもなります。
それをものともせず大きく左右に開くさまは、
鳥が大きく羽を広げて羽ばたいているようにも見えます。
若き日に狭い島国日本を飛び出し、世界を舞台に堂々と
渡り歩いてきた小澤氏ならではの筆跡特徴といえます。
散開点型という名のこの筆跡特徴は社交性の高さも示し、
派手で華やかな舞台が似合います。
小澤氏がこの散開点型を持っていることに
筆跡を知る者としてなんら違和感を感じることはありません。

 

右上の「福楼」という文字、
「福」の「ネ」(しめすへん)と「楼」の「木」(きへん)の
横線の左方への大きな突出も目立ちます。
横線左方長突出型は「才気横溢」、つまり才能のほとばしりや
頭の回転の早さを示し、前述の松下幸之助や
聖徳太子に多くみられる筆跡特徴です。
この色紙をしたためた当時ですでに70歳を過ぎていた小澤氏ですが、
この歳になってもいまだほとばしる才能が抑えきれていない様子
その筆跡からひしひしと伝わってきます。

 

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上の色紙がしたためられたのは、先の筆跡よりさらに7年後の2013年。
人間、歳をとると次第に運筆に衰えを感じるものですが、
小澤氏の筆跡にはそれがまったく感じられないどころか、
さらに溢れんばかりの意欲旺盛なエネルギーがにじみ出ています。

 

「澤」の字には、先に挙げた大弧型に加え、
弧の中をさえぎる障害がなく、中が大きくて
深い洞穴のような空間が出来上がっています。
これは深奥行型といい、文字の奥行の深さは
そのまま人間の奥行の深さや度量の大きさを表します。
征爾の「爾」の中にも左右に深奥行傾向が認められ、
小澤氏が指揮者としてだけでなく、人格的にもずば抜けた
スケールの大人物であることを図らずも示しています。

 

「この『こどもと魔法』は僕の大事な仲間である
サイトウ・キネン・オーケストラとすばらしい歌い手たちと創った作品で、
彼らのおかげで、充実した練習と公演ができてとても楽しかった。
それが松本のフェスティバルの力なのだと思う。
大変うれしく、みんなとこの作品を創れたことを誇りに思います。
仲間たちとこの喜びを分かち合いたいです」

小澤氏がグラミー賞のホームページで発表したコメントです。
「みんなと」「仲間たちと」と、このグラミー賞が自分一人の功績ではなく
みんなで力を合わせて勝ち取った賞であるということを公言しているところにも
包容力のある小澤氏の人間性の一端がよく表れているといえるでしょう。

 

世界的に傑出した指揮者である小澤征爾氏。
傘寿を過ぎてもなお老いも衰えも感じさせない氏の姿を見るにつけ、
私もまだまだ老け込んでいる場合ではないと感じました。