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筆跡診断 とんち和尚一休の毒

「とんち和尚」として知られる一休宗純

一休さんといえば、アニメで描かれる
小気味のよいとんち話が有名ですね。

一休は室町時代の傑僧ですが、彼のとんち話は、
江戸時代に誕生した「一休咄(ばなし)」が原型。

時代を継いで今に語り継がれているのは、
彼の世俗的な生き方が民衆のそれと共鳴していたからでしょうか。

 

一方で、青年期以降の一休は
「破天荒」とか「型破り」と形容される人物でした。

仏教の戒律で禁じられている飲酒、肉食、女犯は当然のこと、
師匠からのお墨付きにあたる印可状を火中に投じる、
杖の柄にドクロをしつらえ「ご用心、ご用心」と叫びながら練り歩く、
朱鞘に木刀を差して托鉢するなど、
その常軌を逸した言動は、
仏教界の教条的な世界に対しての、
彼なりの反骨心の表れだったのかもしれません。

 

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掲載の筆跡は、
一休が弟子の絶天口紹が構えた住まいに与えた軒号を
「滴凍」と定め、揮毫したものです。

 

「看よ看よ、曹源の要津に通ずるを。涓(けん)を宗海に導くは、
是れ何人ぞ。氷消瓦解、三千界。一片の開花、一片の春」

 

これがもし原稿用紙で書かれたとしたら、
マス目の枠外に突き出した文字の何と多いことでしょう。

なかでも際立つのが「人」「片」「解」に見られる左ばらい長型

彼の奇行は先に挙げたもの以外にも、
前でお経を読む代わりに屁をこいて良しとしたり、
「仏とは」と問われた相手に唾を吐きかけるなど、
将軍義教・義尚をして「一休に為す術なし」
匙(さじ)を投げさせるほどでした。

彼の奔放極まる振る舞いは、
当時のお上(足利幕府)に庇護された五山仏教に対する
激烈な風刺であったと言われています。

文字を構成する運筆の途上にあり、
ことさらに長く書くことで次画に移る前にムダな労力を費やす左ばらい型には、
ありきたりに満足せず、衆目を集めたいという心理が見え隠れしています。

その心理が、ぬるま湯に浸かったような体制への批判と相まって、
左ばらいをさらに長大にしていると考えられます。

 

マス目の枠に収まらない突出は他に、
「津」「解」「号」の最終画が下へ長く伸びた縦線下部長突出型
「要」「正」「二」に見られる横線左方長突出型があります。

一休の己を貫く強靭な意志は、
結果にこだわる縦線下部長突出に、
機転の利いたとんちを生む頭の回転の早さは、
才気横溢を表す横線左方長突出に、
それぞれうかがえます。

加えて「曹」「看」「通」など随所に見られる等間隔型が、
彼の尋常でない言動が思いつきや気分によるものではなく、
計算され尽くしたものであろうことを推測させます。

 

「書は人なり」…世人の枠に収まりきらない一休は、
その筆跡特徴も並外れたものでした。

 

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これは「諸悪莫作」「衆善奉行」「初祖菩提達磨大師」と
したためられた一休の墨蹟です。

「菩提達磨」の4字には、
非凡な集中力と微動だにしない自信を表す強連綿型が、
「莫作」「達磨」と解読不能な文字には、
強烈な個性と我流を貫き通す超越字型が、
「作」や前掲「滴凍」の「通」の字には、
大物の相である大弧型が、
それぞれ認められます。

どの型も滅多に拝むことのできない筆跡特徴であり、
そんな希少性の高い筆跡特徴を一人の人間が3つも兼ね備えているところに、
一休のスケールの大きさを感じずにはいられません。

 

ユーモアと機知に富んだとんちで
民衆に永く親しまれている「一休さん」ですが、
彼の繰り出すとんちには、
既成仏教に対する反骨心を滲ませた
強烈な「毒」が盛られていたのかもしれません。


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