筆跡診断 夏目雅子の女性と女優

ある放送評論家をして
「もはや神話の領域に入る女優」と言わしめたのは、
27歳という若さで夭折した「昭和の微笑」夏目雅子

没後、雅子の享年を超える31年が過ぎた今もなお、
色あせない普遍性を漂わせるのは、
「美しさ」と「可愛さ」と「妖艶さ」をあわせもった大女優が、
そのミステリアスな魅力を身にまとったまま
突然この世を去ったからでしょう。

雅子は8歳のとき、
テレビドラマ「チャコちゃんハーイ!」の明るく元気な主人公の姿に、
内向的だった彼女は女優になりたいという夢を抱きます。

17歳になった雅子は映画「ひまわり」で、
戦争で消息不明となった夫を懸命に捜す
主演ソフィア・ローレンの演技に感銘を受け、
女優を志すことに。

その後、18歳でTVドラマ『愛が見えますか』のオーディションに合格。

念願の女優デビューを果たしたものの、
演技の勉強をしたことがない雅子は57回連続でNGを連発するなど、
さんざんな目に。

「お嬢さま芸」と揶揄され、
後々までコンプレックスを抱えることになります。

翌年芸名を“夏目雅子”に変え、
起用されたTV CM「クッキーフェイス」での健康的な笑顔が反響を呼び、
瞬く間に時の人になりました。

この撮影で、のちに結婚することになる伊集院静氏と出会っています。

78年、『西遊記』の三蔵法師役で不動の人気を得た雅子は
80年、NHKドラマ「ザ・商社」で初の汚れ役に挑戦し、
「お嬢さま芸」の悪評を一掃しました。

 

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引用の署名、各字のなかの横線は非等間隔

サインの「雅子」に相当する文字は
見事なまでに円と円とが絶妙な接し方をしています。

非等間隔カンやひらめきに優れた感性を示し、
等間隔計算され尽くした演技力を表します。

夏目雅子の女優としての引き出しの多彩さを感じさせる、
相反する筆跡特徴と言えましょう。

82年に出演し、「なめたらいかんぜよ!」の台詞が
流行語大賞にもなった映画「鬼龍院花子の生涯」では、
迫真の演技でブルーリボン賞主演女優賞を獲得。

演技派女優としての地位を確立しました。

劇中のヌードシーンでは
「他の女優さんも脱いでいるのに、
自分だけ脱がないのはおかしい。私も脱ぎます」と、
事務所の反対を押し切って、体当たりのヌードに挑戦しました。

 

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「夏」「雅」の右上の起筆(ペン先が入る箇所)に
大きなひねりが加えられているのが見て取れます。

起筆ひねり信念の強さと譲らない性格を表します。

スタントを立てる予定だったヌードシーンで
自分の信念に基づいた主張と行動を貫いたのはまさしく、
起筆ひねりのテコでも譲らない愚直さの成せるわざと思わざるをえません。

雅子は先述の「クッキーフェイス」で知り合い
不倫関係にあった伊集院氏と84年に結婚。

母の反対や周囲の厳しい視線に耐えて、
雅子は愛を貫き通しました

女優として確たる地位を築きはじめた85年2月、
舞台「愚かな女」の最中に体調不良を訴え緊急入院。

急性骨髄性白血病でした。

雅子本人には本当の病名を伏せられました。

入院から7カ月、病状も回復し、退院も検討されていた矢先、
抗がん剤の副作用等が原因とみられる肺炎を併発。

高熱から意識不明の重体になり、
同年9月11日、雅子は27歳の短すぎる生涯に幕を下ろしました。

雅子は、命の灯が消えるギリギリまで、
女優としての魂を燃やし続けていました。

「鬼龍院花子の生涯」「瀬戸内少年野球団」「西遊記」…。

作品ごとにまったく異なる「顔」で観るものを魅了していきました。

その眼差しには、時には狂気が、時には無限の優しさが宿っていました。

デビュー当初の「お嬢様芸」というレッテルを払拭するため、
まるで修行するかのごとく懸命に「演技」に励んだ雅子。

一方で、プライベートの雅子はまさに天真爛漫

付き人の引っ越しを手伝ったり、
知り合いに頼まれサイン会を行ったりと、
飾らない性格で周囲に愛されていました。

女性としての魅力を発散させた雅子。

女優としての魅力を磨き上げた雅子。

その2つの雅子が融合し、
大女優としての階段を上りはじめた直後、
病魔が襲ったのです。

雅子の文字にはサインを見ても署名を見ても、
角ばったところがひとつもなく(転折丸型)、
柔軟な思考と人当たりの優しい性格がにじみ出ています。

一方で、雅子の「子」の最終画が右へ大きく突出しています。

これは「右ばらい長型」に相当する特徴で、
目の前のことに夢中になりがちな性格を表しています。

夏目雅子の大女優たる資質は、右ばらい長が意味するところの、
その時その場で演じている役に一心不乱にのめり込みやすい
性質から引き出されているものと考えられます。

雅子の筆跡でもっとも目を惹くのは、
サインの「夏」が示す大きな弧(大弧型)。
淀みのない大きな弧に
雅子の大女優たる資質の片鱗が表れているとともに、
弧のなかの空間に雅子の
はちきれんばかりのエネルギーが宿っているようです。