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筆跡診断 岡本太郎の魂の爆発

今回は「芸術は爆発だ」の名台詞で有名な芸術家
岡本太郎を取り上げます。

没後、今年で20年になりますが、
あの鮮烈なインパクトは今も記憶に鮮明です。

岡本太郎といえば、
かの叫びと大阪万博のシンボルタワー太陽の塔しか印象がありませんでしたが、
今回彼の筆跡と向き合うなかで、
改めて人間 岡本太郎を知ることができました。

 

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漫画家の父 岡本一平と、歌人・小説家である母 かの子との間に生まれた太郎は、
生まれた時から芸術家たる人生を運命づけられていました。

1930年、両親とともに欧州へ移り住み、
その後パリで一人暮らしをはじめます。

そこで哲学、社会学、民俗学などを吸収していきました。

太郎が狭い島国日本に留まっていたならば、
彼の芸術は爆発していなかったでしょう。

それほど欧州での生活は彼にとって大いなる刺激と自信を与えたようです。

1940年、ナチスドイツのフランス侵攻により
帰国を余儀なくされた太郎は徴兵され、
欧州帰りのインテリであることを理由に軍隊で徹底的に苛められます。

それに対し、自ら危険な任務を請け負った太郎は、
のちにこう述懐しています。

「危険、つまり死に直面したとき、生命がパッと燃え上がる、それこそ生きる実感だからだ」。

死と隣り合わせの痺れるような感覚こそが、
彼の芸術を爆発させる根源となったのかもしれません。

 

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彼の「爆発」という筆跡は、文字というより絵画と見まがうほど。

起筆(線の先端部)はどれも尖っており、
上から下に筆を下ろしているにもかかわらず、
燃え盛る炎のように上に向かって揺らいでいるように見えるさまは、
太郎の芸術性がそのまま燃焼されているかのようです。

直線が長く続かず、曲線やジグザグの不規則な蠢(うごめ)きも、
岡本太郎という人物の掴みどころのなさを示しています。

型破りな太郎の人となりは、
大阪万博テーマプロデューサーの就任記者会見で
いきなり「人類の調和と進歩」というテーマを
否定してしまった辺りにもよく表れています。

 

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対照的に「子供たちへのメッセージ」は、
同一人物の筆跡とは思えないほど優しく柔らかいタッチで書かれています。

周りを拒絶するかのようなオーラを放つ
前述「爆」の字の気宇(へんとつくりの間)の狭さに対し、
手紙の文字はどの文字も気宇が広く、開放的な大らかさを感じさせます。

クセがなく素直に入っている起筆は、
子どものような心の純粋性を漂わせます。

「ぼくは 21世紀を見据えて きわめて…」
「そうした 想いから やがて 次の…」
「そして これからは この…」など
文節ごとに区切りをつける書き方は、
意味のまとまりを重視し、節度のある人に見られる特徴です。

お茶の間でおなじみの異様な形相の太郎とはかけはなれた印象ですが、
子どもに向けられた素の眼差しにこそ
人間岡本太郎の本質が表れているように思えてなりません。

あるインタビューであなたの本業はと問われたとき、
「強いて言えば、人間。猛烈に生きる人間だな」と答えています。

太郎にとって芸術とは、
毎回ゼロにリセットしては新たな自分を発掘し創造する
瞬間瞬間の生命の発露でした。

メッセージの筆跡には総じてはねの弱さが目につきます。

はねの強さは粘り強さを表しますが、
太郎のそれは、
過去へのこだわりを捨て新たな沃野を間断なく切り拓く
生命の推進力となっていたのかもしれません。


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