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筆跡診断 宮崎駿の夢と毒と罠

「風の谷のナウシカ」にはじまり
「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」など
数々の名作を手がけてきた、日本アニメ界最大の巨匠 宮崎駿

1997年の「もののけ姫」以降、
幾度となく引退と撤回を繰り返してきましたが、
2013年の「風立ちぬ」後に発表された引退宣言で第一線から
身を引いており、今度の引退宣言はどうやら本気のようです。

 

「アニメーションは基本的に子どものもの」であり
「厳しい現実世界からの、子どもの一時の逃げ場が必要」とするその作品郡は、
ほぼ一貫して子ども視点に立ち、大人を悪役をするケースが多々あります。

ただし宮崎作品では悪役もまた、重層的で複雑な背景を抱えており、
どこか憎めない存在として描かれています。

 

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氏の筆跡を見てどことなく親しみやすさ温かみを感じるのは、
私だけではないでしょう。

冒頭の「画」「書」「編」、本文の「零戦」「設計者」以降にも見られ転折丸型

本来角ばるべき右上箇所がことごとく丸まっているところに、
氏の柔軟かつ奔放で、型破りな発想力や想像力の豊かさが、
筆跡から見て取れます。

人当たりの柔らかい温厚な性格も、この転折丸型の特徴でもあります。

原稿用紙のマス目に収まりきらず枠からはみ出した大きな文字は、
氏の活動力やエネルギーの旺盛さを物語っています。

文字ののびやかさや大らかさは、
のびのびした子ども心も意味しており、
子どもを愛し続けた氏の代名詞のような特徴と言えるでしょう。

「設計者」の「計」の字、
絵コンテ下の「夢の中で」の「中」の字に見られる、
上に突き出た縦線頭部の突出度も特筆もの(頭部長突出型)。

常識を覆すような長大突出からほとばしるエネルギーに、
日本のみならず世界のアニメーション界を牽引してきた
カリスマ的リーダー的資質がひしひしと感じられます。

一芸に秀でたスペシャリスト性や作品に打ち込む集中力は、
開空間狭型(へんとつくりの間が狭い)に、
気取らない庶民的な性格は、
文字の横広度の大きさによく表れています。

はねは全体的な弱めながら、
収筆部(ペンを収める部分)の「トメ」はしっかり収まっています。

常に新しい作品を期待される環境に背中を押されながらも、
細かいことをないがしろにせず強い責任感を持って
取り組んでいた姿勢が垣間見えます。

 

実質引退作となった「風立ちぬ」の企画書の中で、
氏はこう語っています。

「夢は狂気をはらむ、その毒もかくしてはならない。
美しすぎるものへの憧れは、人生の罠でもある。
美に傾く代償は少くない」

一方で「この映画は戦争を糾弾しようというものではない。
ゼロ戦の優秀さで日本の若者を鼓舞しようというものでもない」
ともつづっています。

この映画の主人公 堀越二郎は氏自身の心の投影であり、
二郎が心血を注いで造った飛行機は、結局は戦争の道具となり、
最後は墜落の連続でした。

「自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである」
との想いがありながらも、無邪気に夢を追うことに徹しきれない
ジレンマを示すかのような筆跡特徴が、
この企画書の中に如実に表れています。

表題「風立ちぬ」の「風」、「同じ志を持つ者」の「同」「者」。

本来きちんと接するべき箇所に、
接するでも開くでもない中途半端な空間ができています。

どっちつかずで迷いやすい優柔不断さを表わす筆跡特徴が表れているところに、
氏自身である主人公の純粋な夢と突きつけられた現実の
いかんとも埋めがたい心の歯がゆさを表しているように思えてなりません。


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