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筆跡診断 歌姫ひばりのド根性

昭和の歌姫 美空ひばりが亡くなったのは、平成元年。

すでに四半世紀が過ぎましたが、
ひばりと同世代の私の母は、いまでもカラオケに行けば
「愛燦燦」「川の流れのように」など、ひばりの歌ばかり。

母いわく、ひばり以上に歌のうまい人を私は知らないと言い切ります。

そんな歌姫の本質に筆跡から迫ると、
意外な素顔が浮かび上がってきました。

 

昭和12年、横浜に生まれたひばりの家にはレコードがあり、
歌の好きな両親のもと、幼少から歌うことの楽しさを覚えました。

昭和18年、父の出征にともなう壮行会の席で、和枝は歌を披露。

その場で涙する人たちを見て、娘の歌声に素質の片鱗を見出した母は、
その後慰問活動を行い、その存在を知られるようになります。

コンクールや劇場など場数を踏むなか、
出演映画『悲しき口笛』が主題歌とともに大ヒット。

戦後、彗星のように現れた天才少女歌手 美空ひばりは、
娯楽に飢えていた人々の心を慰め、一躍スターになりました。

磯子に敷地900坪、プール付きの“ひばり御殿”を建設。

NHK紅白歌合戦初出場。

江利チエミ、雪村いづみらと出演した『ジャンケン娘』で
“三人娘”として人気を博します。

 

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引用の筆跡は、網走郡美幌町の町長、
大上重文氏に宛てられたはがきの一部。

 

目黒の「黒」の下の4つの点が大きく左右に開いており(散開点型)、
最後の「様」の横に小さな点が打たれています(装飾型)。

いずれも華やかな社交性と、
ひばりの豪華な衣装に見られるおしゃれな感覚が、
ひばりのスター性をはからずも証明しています。

 

ただし、「様」の木へんや「幌」の「巾」に見られる、
横線上の縦線の控えめな突出は、
ひばりが腰が低く謙虚な性格だったことをイメージさせます。

 

私生活では小林旭との結婚・離婚という出来事を経ますが、
その後も『悲しい酒』『真っ赤な太陽』などヒットを飛ばします。

昭和45年、紅白歌合戦で司会と大トリを務めますが、
実弟の暴力団との関係が明るみになったことで
活動の場を狭め、NHKとも対立。

メディアからバッシングも受けるなか、
ひばりは家族を守る姿勢を貫きます。

そんな家族思いのひばりに、辛い出来事が立て続きます。

昭和56年から61年のわずか5年の間に
母と2人の弟に次々と先立たれます。

そして、ひばりは孤独を深め、
自身も健康をそこなっていくことに。

昭和62年に慢性肝炎ならびに両側大腿骨骨頭壊死。

翌63年に東京ドーム公演以降、体調が徐々に悪化。

平成元年すべての芸能活動の年内休止が発表。

同6月13日、昏睡状態に陥り、24日、52年の短い生涯を閉じました。

不世出の歌手、美空ひばりはかくして伝説の人となりました。

 

華やかな表舞台とは裏腹に、私生活では決して恵まれなかったひばり

書簡を見ると「青葉」「空」「長」など縦長の文字が目につきます。

縦書きで文字が縦長になるのはスマートで省エネタイプ

苦労が絶えず、スマートとはかけ離れた
生きざまだったひばりなればこそ、心の底では
それとは逆の生き方を望んでいたように思えてなりません。

 

ひばりと親交が厚かった横浜本牧観光協会会長の鶴田理一郎氏。

幼いころから学校を休みがちだった彼女は、
学歴に強いコンプレックスを抱き、
高学歴や音楽大学を出たクラシック歌手に対し、
日頃から「学校を出た人たちに負けたくない」対抗心を燃やしていました。

ひばりの筆跡は非常に達筆で、知性の高さや品の良さを感じさせます。

一般教養に欠けていたひばりではありますが、
知性や品性のレベルは相当のものがあったことをうかがわせます。

 

最後の公演となった平成元年2月の小倉コンサートでは、
本番直前のリハーサルまで舞台の花道が歩けず、
わずかの階段も上れないほど衰弱していました。

ところが、いざ幕が開けると、
舞台で飛ぶわ跳ねるわ…ついさきほどまでの弱々しい姿は
演技だったのかと周りを驚嘆させたそうです。

その根性の強さは、「青」「幌」「長」のはねの強さに一目瞭然です。

 

ひばりのスケールの大きさは、
名前の「ひ」「り」の見られる淀みのない伸びやかな曲線で描かれた大弧型
また青葉台の「青」、網走郡の「群」に見られる深い奥行きのある深奥行型に、
しかと刻み込まれています。

 

日ごろ周囲からお姫様扱いされていたひばりですが、
「私は彼女のことを“ゲラちゃん”と呼んでいました。

「何かといえばゲラゲラ笑うからです」と鶴田氏は回想します。

鶴田氏の前で見せる素顔の「ゲラちゃん」は、#ゲラちゃん
実に気さくでスター気取りがなく、
茶目っ気のあるごく普通の女性でした。

そうした人なつっこさは、
ひばりの文字の右上の角ばるべき箇所(転折部)が
すべて丸みを帯びている点からも読み取れます。

 

「女王」「永遠の歌姫」「不死鳥」…
数々の代名詞で形容されるひばりですが、
プライベートでは「ゲラちゃん」だったのは、
この転折丸がすべてを物語っているといえます。


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